「面接予定の10時を過ぎても、応募者は現れなかった」
私は採用担当として、会議室で30分待ち続けた。
電話を3回かけても出ない。
メールにも返信はない。
前日には本人から、
「明日は予定どおり伺います」
と確認まで届いていた。
面接のために現場責任者の予定を空け、資料を印刷し、会議室も確保していた。
それなのに、謝罪どころかキャンセルの一言すらなかった。
腹が立った私は、半分冗談でAIに入力した。
「面接を無断キャンセルする人に対して、とにかく嫌味なメールを作って」
数秒後、画面には恐ろしく丁寧で、恐ろしく刺さる文章が表示された。
「社会における信用は、一つひとつの行動によって築かれ、また失われていくものです」
さらに最後には、
「今後、他社へ応募される際は、面接で何を話すか考える前に、まず約束した日時に出向くことから始められることをおすすめいたします」
と書かれていた。
正論だった。
だが、あまりにも嫌味だった。
私は少し笑ったあと、その文章を保存も送信もせず、画面を閉じた。
実際に送ったのは、わずか3行。
「本日の面接について、ご来社とご連絡を確認できませんでした。
選考は終了といたします。ご了承ください」
感情をぶつけても、会社の品格まで下げる必要はない。
そう思ったからだ。
それから3か月後。
私のもとに、見覚えのある名前からメールが届いた。
「あのときは事情がありました。もう一度面接していただけませんか」
しかも理由の説明も、謝罪もない。
履歴を確認すると、その応募者は別の求人媒体から、初応募のように申し込んでいた。
私は以前の面接記録、発信履歴、確認メールをそろえ、採用責任者へ提出した。
すると責任者は書類を見ながら、静かに言った。
「この人、来週うちの取引先にも応募しているらしいよ」
どうやら取引先の採用担当者が、経歴確認のため連絡してきたという。
もちろん、個人情報を勝手に話すことはできない。
私は事実だけを社内記録として整理し、今回も淡々と選考終了を伝えた。
数分後、応募者から長いメールが届いた。
「なぜチャンスをくれないのか」
私は返信画面を開き、あの日AIが作った嫌味な文章を思い出した。
そして一度だけ深呼吸し、もっと短い一文を入力した。
「選考結果は、面接での受け答えだけではなく、面接に至るまでの行動も含めて判断しております」
送信ボタンを押したあと、二度と返信は来なかった。
嫌味を言わなくても、記録と事実だけで十分だった。
信用を失わせたのは、私のメールではない。
約束を軽く扱った、本人自身だった。