修学旅行のしおりを持ち帰ってきた息子が、妙にニヤニヤしていた。
「お母さん、財布のところ見て」
言われるまま準備物の一覧を確認する。
赤白帽子。
筆記用具。
ナップサック。
洗面用具。
ここまでは普通だった。
ところが、その下の一文を見た瞬間、私は固まった。
「財布(おこづかい 4,000,000円以内)」
……400万円?
思わずもう一度、数字を数えた。
0が1つ、2つ、3つ……。
やっぱり400万円に見える。
「修学旅行って海外の高級ホテルにでも泊まるの?」
私が聞くと、息子は待ってましたと言わんばかりに笑った。
「“以内”だから、399万円でもいいってことやろ?」
「よくないわ!」
数千円のお小遣いを想定していた親からすると、突然の400万円は破壊力が強すぎる。
しかも息子は調子に乗って、
「じゃあ財布じゃ入らないからバッグ必要やな」
「現金400万円持って集合したら先生もびっくりするよな」
と楽しそうに話し始めた。
私は笑いながらも、念のため他の保護者に写真を送って確認した。
すると数分もしないうちに返事が続々と来た。
「うちも今気づいた!」
「400万円以内って、上限が豪快すぎる」
「そんなに持たせたら修学旅行どころじゃない」
どうやら我が家のしおりだけではなかったらしい。
その日の夜、保護者の間ではこの「400万円」がちょっとした話題になった。
一方、子どもたちはさらに盛り上がっていた。
「400万円あったらお土産何個買える?」
「ホテルごと買えるんちゃう?」
もちろん、そんなわけはない。
翌日、学校から訂正の連絡が来た。
やはり印刷上のミスで、本来のお小遣いはごく普通の金額だった。
先生からは、
「大変申し訳ありません。400万円を持たせる必要はありません」
という趣旨の説明まであったそうで、息子のクラスは大爆笑。
帰宅した息子は少し残念そうに言った。
「俺、一瞬だけ金持ちになった気分やったのに」
そして修学旅行当日。
息子の財布に入っていたのは、もちろん400万円ではない。
決められた範囲のお小遣いだけ。
帰宅後、財布の中を見ると、ちゃんと少し残していた。
「全部使わなかったんだ?」
そう聞くと息子は得意げに、
「400万円に比べたら少ないから、大事に使った」
思わず笑ってしまった。
たった1つの「0」の多さで、修学旅行前の我が家は数日間ずっと笑いっぱなし。
準備物の中で一番忘れられないものは、歯ブラシでもタオルでもない。
間違いなく――
「おこづかい400万円以内」だった。