朝、駐車場を通りかかった私は、思わず足を止めた。
黒いミニバンの周囲に、見慣れない赤いロープが何本も張られていたのだ。
ドア付近には目立つ札まで取り付けられている。
一瞬、事故でもあったのかと思った。
だが近づいてみると、どうやら車が自由に動かせないよう処置されているらしい。
その車の持ち主は、近所に住む知人のAだった。
Aは少し前まで、よくこんなことを言っていた。
「税金なんて、ちょっと遅れたくらいで何も起きないって」
私が、
「督促が来てるなら、一度ちゃんと確認した方がいいんじゃない?」
と言っても、
「大丈夫、大丈夫。どうせ紙を送ってくるだけだから」
と笑っていた。
彼は車が大好きだった。
洗車は毎週。
ホイールにもこだわり、車内には最新の機器。
休日になると、
「やっぱり車には金かけないとな」
と嬉しそうに話していた。
ところがその一方で、郵便受けに届く役所関係の封筒は、開けずに放置することがあったらしい。
最初は普通の通知。
次は少し強い文面。
それでもAは、
「今月は金がないから来月」
と言い続けた。
給料が入ると、飲みに行った。
新しい服を買った。
車用品も買った。
「払えない」のではなく、本人の中で税金の優先順位が低かったのだ。
そして、あの朝だった。
「おい!何だよこれ!」
外からAの大声が聞こえた。
窓から見ると、Aが車の周りを何度も歩き回っていた。
ロープを見て、札を見て、スマホを取り出す。
数分後には、
「勝手に人の車にこんなことしていいのか!」
と怒鳴っていた。
私は少し離れた場所から見ていたが、担当者らしき人は冷静だった。
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