息子から電話が来たのは、平日の夕方だった。
「母さん、財布なくした……」
現金だけならまだしも、財布には免許証やカード類も入っている。
息子は慌てて駅へ戻り、駅員さんに尋ねた。
すると幸運なことに、
「届いていますよ」
との返事。
中身もほぼそのままだった。
私は本当にありがたいと思った。
拾って駅へ届けてくれた方がいたのだ。
駅から連絡先について説明を受け、後日、息子は拾得者へお礼の電話をした。
ところが電話の途中で、息子の表情が変わった。
「え……振り込みですか?」
電話を切ったあと聞くと、相手から、
「拾ったんだから感謝料をください」
と言われ、銀行口座まで伝えられたという。
もちろん、拾得者に一定の報労を求める権利が生じる場合があることは知っていた。
だから私は最初から、払う・払わないを感情だけで決めるつもりはなかった。
ただ、
「個人口座へ直接振り込んで」
と言われたことが気になった。
私は息子に、
「勝手に振り込まず、まず駅か警察に正式な手続きを確認しよう」
と伝えた。
その日はそれで終わったと思っていた。
ところが数日後。
郵便受けに1枚のハガキが入っていた。
差出人は、財布を拾った人物。
そこには、
「拾得者としての権利を主張する」
という趣旨の文章とともに、
「報労金」
「請求内容作成及び通信費用」
などの文字。
さらに金額まで書かれていた。
私は思わず二度見した。
なぜ、この人が自宅住所を知っているの?
息子も、
「俺、住所なんて教えてないよ」
と言う。
そこで翌日、私はハガキを捨てずに封筒へ入れ、息子と一緒に駅へ向かった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください