仕事を終えて駐車場へ戻ると、愛車のラシーンのフロントガラスに白い紙が挟まれていた。
「至急、お車の移動をお願いします。車を停めることができず困っています」
一瞬、私が区画を間違えたのかと思い、足元の番号を確認した。
間違いなく「8番」。
管理会社と契約し、毎月8800円を払っている私の駐車スペースだった。
それなのに、誰かが勝手にワイパーを持ち上げ、車に張り紙をしている。
紙の下には管理会社らしき名前も書かれていたが、電話番号はなかった。
私はすぐに張り紙と駐車区画、ラシーンのナンバーが一緒に写るよう写真を撮った。念のためワイパーやボンネットに傷がないことも確認した。
翌朝、管理会社へ連絡すると、担当者は驚いた声で言った。
「8番は間違いなくお客様の契約区画です。こちらから移動をお願いした事実もありません」
では、張り紙をしたのは誰なのか。
その日の夕方、駐車場へ行くと、隣のアパートに住む女性が私のラシーンの前に立っていた。
「あ、この車の人?」
女性は悪びれもせず、
「そこ、ずっと私が使ってたの。急に停められたら困るんだけど」
と言った。
話を聞くと、8番は数か月間空いており、女性は来客用として無断で使っていたらしい。
「今まで誰にも何も言われなかったから、私の場所みたいなものよ」
私は契約書の画面を見せた。
「私は今月から正式に8番を借りています。管理会社にも確認済みです」
すると女性は眉をひそめ、
「だったら、使う前に一言くらい知らせるのが普通でしょう」
と言い返してきた。
なぜ正式な契約者が、無断使用していた人へ許可を取らなければならないのか。
私は言い争わず、管理会社へその場で電話した。
担当者がスピーカー越しに、
「8番の契約者は現在こちらのお客様です。以前から無断駐車について注意していましたよね」
と告げると、女性の表情が固まった。
実は管理会社には、以前から8番を勝手に使う車について複数回の苦情が届いていたという。
さらに私のラシーンには、駐車監視機能付きのドライブレコーダーがある。
映像には女性がワイパーを強く持ち上げ、張り紙を挟む姿まで残っていた。
「今後、車には触らないでください。無断使用が続く場合は、記録を提出します」
私が静かに伝えると、女性はようやく小さな声で謝った。
後日、管理会社は8番に契約者名入りの表示板を設置し、女性にも書面で警告した。
それ以来、張り紙も無断駐車も一度もない。
空いていた場所を使っていたからといって、自分のものになるわけではない。
私のラシーンは今日も、毎月きちんと料金を払っている8番に堂々と停まっている。