「ポケカ、今日入るんでしょ? 裏に隠してないで出してよ」
開店してまだ3分。
レジに立ったアルバイトの高校生に、男が詰め寄っていた。
私は町の小さな店で店長をしている。以前は子どもたちのために、ポケモンカードも少しだけ仕入れていた。
ところが人気が高まるにつれ、店の雰囲気は一変した。
入荷予定を尋ねる電話が、1日に30件以上。
配送トラックを店の外で待ち伏せする人。
スタッフの後をついて回り、段ボールの中をのぞき込む人。
中には、商品を買った子どもにまで「その箱、いくらで売る?」と声をかける大人もいた。
私たちは購入数を1人1点に制限した。
それでも同じ人物が服を着替え、家族まで連れて何度もレジへ並んだ。
ある土曜日には、最後の1箱を小学生が購入した瞬間、40代くらいの男性が大声を上げた。
「子どもより、たくさん買う客を優先しろよ!」
男はレジ台をたたき、泣きそうな新人スタッフへスマートフォンを向けた。
「店名を晒してやる。二度と商売できないようにしてやるからな」
私はすぐにレジへ向かった。
「その撮影をやめてください。今日はお帰りください」
すると男は、私にまで食ってかかってきた。
「客に逆らうのか? 次の入荷日を教えれば済む話だろ!」
私は何も言い返さず、防犯カメラの時刻を確認した。
男がレジ台をたたく姿も、スタッフを脅す声も、すべて記録されていた。
さらに確認すると、同じ人物が過去3週間で8回も来店し、家族や知人らしき人を使って購入制限を破っていたことも分かった。
私は映像を保存し、警察へ相談。
その男には今後の入店を断ると正式に伝えた。
そして翌朝、入口に1枚の紙を貼った。
「当店ではポケモンカードを今後販売しません。スタッフへの執拗な問い合わせや威圧行為があった場合、入店をお断りします」
貼り紙を読んだ常連客からは、意外にも批判ではなく拍手が起きた。
「よく決断してくれた」
「子どもが怖がっていたから助かる」
「店員さんを守る方が大事だよ」
例の男は数日後、何も知らずに再び来店した。
「今日の入荷は?」
私は無言で貼り紙と防犯カメラを指した。
さらに警察へ相談済みであることを伝えると、男は一瞬で黙り、逃げるように店を出ていった。
ポケカの売り上げはなくなった。
しかし、電話は静かになり、スタッフの表情にも笑顔が戻った。
何より、子どもたちが安心して買い物できる店に戻った。
商品を売ることより、店員と普通のお客さんを守ることの方が大切だ。
あの貼り紙を見るたび、私は今でも思う。
本当に、よくぞ書いた。
いいぞ、もっとやれ――そう言ってくれたお客さんたちに、心から感謝している。