「お母さん、10円はいらないって返されたよ」
小学生の息子が差し出した手のひらを見て、私は一瞬、言葉を失った。
そこにはタピオカミルクティーのレシートと、細かい硬貨が何枚も載っていた。
商品代は税込605円。
私は息子に1010円を持たせていた。
1000円だけで支払えば、お釣りは395円。
だが1010円を出せば、お釣りは405円になる。
受け取る硬貨の枚数が少なくなり、息子にもお金の計算を覚えてもらえると思ったのだ。
ところが、レジの店員は息子が差し出した10円玉を見て、
「これはいらないよ」
と返し、1000円だけを受け取ったらしい。
その結果、息子は100円玉3枚、50円玉1枚、10円玉4枚、5円玉1枚という、合計395円のお釣りを持って帰ってきた。
さらに返された10円玉もある。
合計金額は間違っていない。
損もしていない。
それでも私は、思わず天井を見上げた。
「いや、だからその10円を使いたかったのよ……」
息子は申し訳なさそうに首をかしげた。
「僕、1010円出したよ。でも店員さんが間違ってるって言ったから……」
息子は何も悪くない。
むしろ初めて1人で注文し、自分で財布を開き、きちんとお金を出したのだ。
私は息子を褒め、レシートと硬貨を一緒に並べた。
「605円に1010円を出したら、お釣りはいくら?」
息子は紙に計算を書き、少し考えて答えた。
「405円」
「じゃあ1000円だけなら?」
「395円……あっ」
ようやく意味を理解した息子は、硬貨の山を見て笑った。
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