12月の初め、実家の玄関先に一つの段ボール箱が届いた。差出人の欄に書かれていたのは、20年前に家を出て以来、一度も連絡を寄こさなかった兄、拓也の名前だった。
母はしばらく箱を開けようとせず、玄関に立ったまま、送り状だけをじっと見つめていた。中身は地元の老舗菓子店の詰め合わせで、特別変わったものではなかった。
家族が言葉を失ったのは、送り状に印字された差出人の住所だった。
実家から歩いて15分ほどの、昔からある住宅街の一角。20年前、兄が「もう帰らない」と言って家を出て行った先が、こんなに近い場所だったとは、誰も想像していなかった。
兄が家を出た理由は、当時の父との激しい言い争いだった。跡を継ぐ、継がないという話がこじれ、ある晩、拓也は荷物をまとめて出て行った。それ以来、電話番号も住所も分からないまま、家族の間では「もう会うことはないだろう」という空気ができあがっていた。母は毎年、正月になると「元気にしているといいけど」とだけつぶやき、それ以上は誰も踏み込まなかった。
段ボール箱を前にした家族は、しばらく話し合い、母が思い切って、送り状に書かれた住所を訪ねてみることにした。
妹の私も、心配で付き添うことにした。着いた先は、実家からもほど近い、古い小さなアパートの一室だった。呼び鈴を押すと、20年分年を重ねた拓也が、驚いた顔でドアを開けた。しばらくの間、母も兄も、何も言えずにただ立ち尽くしていた。
話を聞くと、拓也は家を出た翌年、一度だけ実家に手紙を送っていたという。仕事が落ち着いたら顔を出す、というだけの短い内容だった。
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