「母親まで連れて来やがって!」
玄関の奥から響いた怒声の直後、乾いた音がした。私は財布を忘れて戻ってきただけだった。けれど、開いたドアの隙間から見えたのは、床に倒れ込む娘・美穂の姿だった。
赤く腫れた頬を押さえ、声も出せず震えている。その足元には、私が持たせた惣菜のタッパーが割れ、煮物が床に散らばっていた。娘の前に立っていたのは、婿の健一。
つい一時間前、寿司屋で私に笑顔を向けていた男とは別人だった。
「僕の稼ぎで食わせてもらっているくせに、母親の前で見栄を張ったくらいで文句を言うな」
私は怒鳴らなかった。ただ、バッグの持ち手を強く握った。その時、私の隣から低い声が響いた。
「ずいぶん威勢がいいな、佐藤君」
健一の顔から、一瞬で血の気が引いた。
私の隣に立っていたのは、高橋誠さん。健一が勤める商社の社長だった。彼は十年前に亡くなった私の夫の元部下で、偶然近くを車で通りかかり、私に声をかけてくれた人だった。
健一はその場に崩れ落ち、床に額をこすりつけた。
「社長、これは誤解です……!」
だが、高橋社長の表情は動かなかった。
「誤解かどうか、これから確認しよう。
君が会社に提出した、和子さんの重病の診断書と介護費用の請求書について」
美穂が驚いて私を見た。私は静かに首を振った。私は病気などしていない。病院にも通っていない。
健一は、会社で私を重病に仕立て上げ、治療費や介護費が必要だと嘘をついていた。さらに、義母の実家を売って費用に充てると説明し、社員向けの特別ローンまで申請していたのだ。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=UJC-858Esrk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]