俺の名前は桜井連、31歳。今日、義姉の娘である地下と、恋人だった彩の結婚披露宴が開かれた。地下が自らキッチンに立ち、俺たちのためにコース料理を作ると申し出たのだ。20歳になったばかりの、駆け出しの料理人としての初仕事だった。
コースは見事だった。専門学校で学んだ和食の技術を注ぎ込んだ本格的な内容に、ゲストたちは料理が運ばれるたびに歓声をあげた。
だが最後の一皿だけ、様子が違った。他のゲストの前には上品な炊き込みご飯と赤出しが並んでいる。なのに俺の前だけ、白いご飯と味噌汁、そして皿の端にウインナーが3本。
白い調理服のまま、地下が俺の前に立った。
「れん君、覚えてる?」
その一言で、記憶は14年前まで一気に巻き戻った。
俺と地下の関係は、義姉のなおの死から始まった。なおは俺の兄・週一の妻で、地下の母親だった。週一が家庭を顧みず外で遊び歩く間、なおは1人で家事も育児も仕事もこなし続け、ある朝、台所の床に倒れたまま二度と目を開けなかった。過労だった。駆けつけた俺が見たのは、冷たくなったなおの手と、その横で泣くこともできずに座り込む6歳の地下の姿だった。
葬儀の会場で、週一は「俺には無理だ」とだけ言い残して姿を消した。地下の引き取り先を巡って、なおの両親が名乗りを上げたが、俺は覚えていた。生前のなおが両親から「1人で面倒も見れないのに産むな」と言われ、それでも笑って耐えていたことを。俺は前に出て「地下は俺が引き取ります」と告げた。なおの父に胸ぐらを掴まれ、パイプ椅子ごと突き飛ばされても、その意志は変わらなかった。
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