田村航太は、契約社員として同じ部署で5年間働いてきた。専門性の高いデータ入力と資料作成を任され、部署内でも頼りにされる存在だった。毎年の契約更新も、これまで一度も問題になったことはなかった。
その年の3月、航太は人事から呼び出しを受けた。会議室で告げられたのは、「来月末で契約を終了する」という一言だった。理由は「人員整理の対象になった」というだけで、それ以上の説明はなかった。
航太は5年分の評価シートを見せてほしいと頼んだが、「個人情報のため開示できない」の一点張りで断られた。上司に相談しても、「人事のことは自分には分からない」と目をそらされるだけだった。納得できないまま、最終出勤日は少しずつ近づいていった。
契約終了を告げられてから1週間後、部署にひとり、新入社員が配属された。挨拶の名刺を渡されて、航太は自分の目を疑った。名前が「田村航太」、自分とまったく同じだった。生まれた年は10歳以上離れていたが、漢字ひとつまで違わなかった。
「珍しい偶然ですね」と周囲は笑ったが、航太自身は妙な胸騒ぎを覚えていた。自分がいなくなる部署に、自分と同じ名前の人間が入ってくる。
まるで自分の居場所ごと入れ替えられるような、落ち着かない感覚だった。
新入社員は航太より10歳以上年下で、面識もこれまで一度もなかった。名刺以外は共通点らしい共通点もなく、周囲は単なる笑い話として受け止めていた。航太自身も、最初は深く考えないようにしていた。残りわずかな出勤日を、これまで通り淡々とこなすことだけを考えていた。
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