千夏がその異変に気づいたのは、契約社員として今の職場に移って半年ほど経った頃だった。
午後3時15分になると、決まって鼻血が出る。多い日も少ない日もあるが、時間だけは毎回ぴったり同じだった。朝でも夕方でも、休日でも起きたことはない。平日、自分のデスクに座っているときだけ、その時間になると必ず起きた。
最初は季節の乾燥だと思っていた。
加湿器を置いても、マスクをつけても変わらなかった。次に疲労を疑い、早く寝る日を増やしても、休みの日を挟んでも、時間はまったくずれなかった。産業医に相談したが、「鼻の粘膜がもともと弱いのかもしれない、様子を見ましょう」とだけ言われ、それ以上は分からなかった。
同僚に話しても、半分は心配され、半分は「気のせいじゃない?」と笑われた。千夏自身も、次第に自分の感覚を信じられなくなっていった。ティッシュを常にデスクの引き出しに常備し、午後3時を過ぎるとさりげなく席を立ってトイレに向かう、それが半ば習慣になっていた。上司にも「体調管理をしっかりするように」とだけ言われ、業務内容そのものを疑われることはなかった。
眼科でアレルギーの検査も受けたが、特定のアレルゲンは見つからなかった。血液検査の結果も、これといって異常は指摘されなかった。原因が分からないまま、季節が二度変わった。
それでも千夏は、自分でノートに記録をつけ始めた。日付、時間、そのときの体調、座っていた席の位置、天気、周囲の音。最初の1か月は何も見えてこなかった。2か月目に入って、ようやくひとつのパターンに気づいた。
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