兄嫁の瑠美さんに初めて会った日から、私は「ニート」扱いされていた。
私が実家で両親と暮らしながら在宅で仕事をしていると話すと、
「引きこもりなんですか?」
と平然と聞いてきたのだ。
私は何度も否定した。
それでも瑠美さんは信じなかった。
そんな兄夫婦が新居を建てた。
新築祝いの日、私は弟嫁のあき子さんと一緒に訪ねた。
豪華な新居を案内され、ブランド品で埋まったクローゼットまで見せられたあと、私は用意していた包みを渡した。
中身はエプロンだった。
瑠美さんは刺繍を見て顔をしかめた。
「今どき手作り?」
私は説明しようとした。
「これは私が――」
だが最後まで聞いてもらえなかった。
「ニートとはいえ、もう少しマシな物を持ってくると思ったわ。ゴミみたい」
そしてエプロンを床に投げた。
いつも穏やかなあき子さんが、すぐに拾い上げた。
「そんな言い方、あんまりです」
すると瑠美さんは、
「じゃあ、あき子さんがもらえば?」
と笑った。
私はあき子さんに尋ねた。
「本当にもらってくれる?」
次の瞬間、あき子さんの顔が明るくなった。
「いいんですか? こんな高級ブランドのエプロン」
瑠美さんが固まった。
実は私はイラストレーターだった。
会社を辞めてから作品を作り続け、ネットで発表していたキャラクターが少しずつ知られるようになった。
そして最近、そのキャラクターと高級ブランドとのコラボが実現していた。
エプロンもその限定商品の1つ。
職人が仕上げた一点物で、私がデザインを手掛けたものだった。
「私が作った」と言ったのは、その意味だった。
ところが瑠美さんは最後まで聞かず、勝手に「ニートの手作り品」だと思い込んだのだ。
事情を知った途端、態度は一変した。
「それ、私のだから返して」
私は断った。
「もう、あき子さんにあげました」
その日の夜。
兄が実家へやってきた。
頬には引っかき傷があり、服も乱れていた。
瑠美さんと喧嘩になったという。
そして私のスマホに、本人から電話が入った。
「例のエプロン、あと5着用意して」
友人にも配り、ネットで自慢したいらしい。
私が断ると、瑠美さんは次々と本音を口にした。
兄とは高収入だから結婚した。
家族は自分をもっと持ち上げるべき。
私が人気イラストレーターなら、それも自慢に使えた――。
彼女は知らなかった。
その通話を、兄も両親も聞いていたことを。
そして兄が静かに口を開いた。
「瑠美、離婚しよう」
兄は以前から、浪費や暴言、暴力まで記録していた。
後日、離婚は成立した。
私が悲しかったのは、高価なエプロンを捨てられたことではない。
もし本当に名もない手作り品だったとしても、人から贈られた気持ちを床へ投げる人だったことだ。
値段を知った瞬間だけ大切にする。
そんな人に、私の作品を渡さなくてよかったと思っている。