父がこの家を離れたのは、約10年前だった。
「いつか戻るかもしれない」
「また使うかもしれない」
そんな思いから、家は壊さずそのまま残された。
ガスも電気も長い間契約されたまま。
固定資産税も毎年払い続けていた。
ところが、実際に家が使われることはほとんどなかった。
久しぶりに状態を確認すると、そこにあったのは私が想像していた“古い実家”ではなかった。
屋根には穴が開き、雨水が室内へ直接入り込んでいた。
天井は崩れ、床も一部は腐っている。
外壁は剥がれ落ち、木部にはシロアリ被害と思われる跡まで見つかった。
室内には食器、家具、歯ブラシ、生活用品。
まるで昨日まで誰かが暮らしていたようなのに、家そのものだけがゆっくり壊れていた。
さらに隣には、父が陶芸に使っていた工房も残っていた。
そこには大量の土や釉薬などがあり、内容によっては通常の家庭ごみとして簡単に処分できない可能性もあるという。
まず残置物を片づけるだけでも、70万〜100万円ほどかかる可能性がある。
家の解体やその他の処理を合わせれば、400万円前後、状況によってはさらに費用が必要になるかもしれないと言われた。
私はそこで考えた。
だったら土地を売ればいい。
ところが、知り合いを通して市内の不動産会社7社ほどに相談しても、誰も欲しがらなかった。
理由は単純だった。
この地域で同程度の土地は、資料上では150万円ほどの水準。
一方、建物や残置物を処理するためには、その何倍もの費用がかかる。
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