55歳の藤本には、自信があった。
メーカーで35年間営業一筋。
人間関係は、会話と仕切り方で動かせる。
そう信じていた。
3か月前に参加した婚活バスツアーでは、隣の女性へ何を話しても、
「へえ」
「そうなんですね」
と返されただけだった。
藤本は自分に原因があるとは考えなかった。
「酒もない密室だったから、俺の良さが出なかったんだ」
そして見つけたのが、春の婚活ウォーキング&お花見交流会だった。
「これなら俺が場を回せる」
前日には缶ビール6本と大量のおつまみを購入。
当日は本格的なトレッキングシューズを履き、巨大なリュックで会場へ現れた。
参加者は男女各8名。
その中で藤本が目をつけたのが、43歳の加能よし子だった。
落ち着いた雰囲気の女性だった。
最初のウォーキングで偶然ペアになると、藤本はすぐに話し始めた。
営業成績。
部下のマネジメント。
以前参加した婚活の失敗。
自分がどれほど頼れる男か。
よし子が途中で、
「あそこに綺麗な鳥がいますね」
と話題を変えても、
「そうですね。ところでこの前、若手社員が――」
と自分の話へ戻した。
15分後。
よし子が次の男性のところへ移ると、藤本は満足していた。
「完璧だったな」
だがその後、藤本は気になる光景を見る。
54歳の中村という男性と歩くよし子が、楽しそうに笑っていた。
中村は鳥や花を一緒に眺めながら、静かに会話している。
藤本には、それが理解できなかった。
「鳥の話なんかして何が楽しいんだ」
昼休憩になると、今度は藤本が参加者全員へ声をかけた。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください