「会社は弟のハルトに継がせる。だから、このビルもハルトに任せる」
父からそう告げられた時、私は驚かなかった。
ワクワクビルは、もともと赤字続きの物件だった。
私と妻のゆいは、そこに動画制作会社や広告会社、個人クリエイターを集めた。
共有ラウンジを作り、
撮影スタジオを整え、
壁を黒板にして企画を書き込めるようにした。
一見すると無駄に見える空間にも意味を持たせた。
その結果、ビルは黒字化した。
ところが父と母は、その成果ごと弟へ渡すことにした。
弟は笑った。
「兄さん、お膳立てありがとう」
私は素直に手を引いた。
もともと経営を立て直したら返す約束だったし、何より私にはすでに妻と始めたビル再生の会社があった。
問題はその後だった。
弟はまず、交流ラウンジを「利益を生まない空きスペース」と考え、別テナント用に変えた。
さらに既存テナントへ家賃20%アップを通知した。
「兄さんの家賃設定は安すぎた」
弟はそう言った。
だが入居していたのは、大企業ばかりではない。
若いクリエイターや小規模な制作会社も多かった。
交流ラウンジは、仕事やコラボが生まれる場所だった。
撮影スペースも常に予約が入っていた。
弟は、数字だけを見て、それを全部壊した。
やがて退去する企業が増えた。
それでも弟は空いた場所へ居酒屋やカラオケなど、家賃の高いテナントを入れた。
今度は騒音や客のマナーが問題になり、制作系の利用者がさらに離れた。
その頃、私は別のビルを手掛けていた。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください