私の父は、この道50年近い花火職人だった。
地方の小さな花火大会でも、最後を飾る大玉だけは自分の手で作る。そんな頑固な人だった。
半年前、父は病気で亡くなった。
最期が近づいた頃、父が繰り返していた言葉がある。
「倉庫の奥にある最後の玉だけは、絶対に触るな」
それは父が完成間近まで作っていた最後の作品だった。
専門家以外が扱ってはいけない危険なものだったため、父の弟子が引き取りに来るまで、私は鍵をかけて保管していた。
ところが、その存在を近所の女性に知られてしまった。
彼女は突然やって来て、「今週末、娘の誕生日BBQなの。あの大きな花火、使わせてよ」と言い出した。
私は何度も説明した。
市販の花火ではない。
素人が庭で使うものでもない。
まして子どもに触らせるなど絶対にできない。
それでも彼女は、「お父さんも亡くなったんだから、もう使い道ないでしょ」と笑った。
私は追い返し、念のため倉庫の鍵も確認した。
しかし翌日、買い物から戻った私は立ち尽くした。
倉庫の扉が壊されていた。
そして父の花火がない。
嫌な予感がして外へ出ると、近所から音楽と歓声が聞こえてきた。
女性の家の庭ではBBQが行われ、何人もの親子が集まっていた。
その中央にあったのが、父の花火だった。
「職人が作った特大の花火なんだって!」
女性は自慢げに話し、娘に火を使わせようとしていた。
私は庭へ駆け込んだ。
「やめて! それは普通の花火じゃない!」
しかし彼女は聞かなかった。
「貸したくないから脅してるだけでしょ」
次の瞬間だった。
低い異音がした。
私は反射的に近くの遮蔽物へ身を寄せ、周囲にも離れるよう叫んだ。
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