「あと3cmで当たってますけど!」
スーパーの駐車場で、私は思わず声を上げた。
隣の白い車が、何度も切り返しながらこちらへ近づいてきたからだ。
運転していたのは、高齢の女性。
私はまだ車内にいた。
だから、ぶつかる直前までの動きが全部見えていた。
ハンドルを切るたびに車体がこちらへ寄り、サイドミラー同士の隙間は、指が数本入る程度。
それでも女性は、一度も私の車を確認しなかった。
ようやくエンジンが止まった。
女性は車から降りると、斜めになった自分の車を見て笑った。
「あら、ずいぶん曲がっちゃったわね」
そのまま店内へ向かおうとする。
私は窓を開けて呼び止めた。
「すみません。今、私の車に当たりそうでしたよ」
すると女性は振り返り、不満そうに言った。
「当たってないんでしょ?」
「なら問題ないじゃない」
謝罪も確認もなかった。
私は言い争わず、車体の隙間とナンバーを撮影した。
さらにドライブレコーダーを確認すると、女性の車が白線を越え、こちらへ急接近する様子が鮮明に残っていた。
その直後だった。
女性が店から戻り、車を出そうとした。
しかし後方確認をせず、勢いよくバック。
後ろを歩いていた親子が、慌てて飛びのいた。
母親が子どもの腕を引かなければ、接触していたかもしれない。
私はすぐにホーンを鳴らした。
警備員も駆けつけ、女性にエンジンを切るよう求めた。
だが女性は窓を開けて怒鳴った。
「邪魔しないで!」
「私は何十年も事故なんて起こしてないのよ!」
警備員が店内の防犯カメラを確認すると、別の事実が分かった。
女性は入庫する前にも、一方通行を逆走。
歩行者のすぐ横を通り、駐車枠を2台分またいでいた。
そこへ、買い物を終えた女性の娘らしき人が走ってきた。
「お母さん、また運転してきたの?」
女性の表情が固まった。
娘さんによると、数日前にも自宅の塀をこすり、家族から運転を止められていたという。
それなのに鍵を持ち出し、1人で買い物に来ていたのだ。
女性はまだ、
「大げさよ」
と言い張った。
私は静かにスマホを差し出した。
そこには、私の車へ接近する映像。
親子が飛びのく瞬間。
警備員とのやり取りが、すべて記録されていた。
映像を見た娘さんは、深く頭を下げた。
「本当に申し訳ありません」
その後、娘さんは車の鍵を預かり、女性を自分の車に乗せて帰った。
後日、スーパーから連絡があった。
家族で話し合い、今後は1人で運転させず、免許返納についても相談することになったそうだ。
問題なのは年齢ではない。
危険を指摘されても確認せず、「当たっていないからいい」と済ませる姿勢だ。
事故が起きてからでは遅い。
あの時、黙って見過ごさなくて本当によかった。