「おい、あの車……子どもがハンドルを握ってるぞ」
東名高速を走っていた午後8時すぎ。
前を走るミニバンが、何度も白線を踏んでいた。
左へ寄ったかと思えば、急に右車線へはみ出す。
速度も安定せず、後続車が次々とブレーキを踏んでいた。
居眠り運転か、酒でも飲んでいるのか。
そう思いながら車間距離を広げたが、次の瞬間、その車が再びこちらへ寄ってきた。
危険を感じた私は、短くホーンを鳴らした。
横に並んだ時、助手席の妻が息をのんだ。
「あなた、運転席を見て!」
運転席の男の膝には、4、5歳ほどの子どもが座っていた。
しかも、その小さな両手がハンドルを握っていた。
男は片手を添えているだけ。
助手席の女性は止めるどころか、笑いながらスマホを見ていた。
ここは住宅街でも、駐車場でもない。
大型トラックが時速100km近くで走る東名高速だ。
私は怒鳴り込もうとはしなかった。
妻に動画撮影を頼み、速度を落として距離を取った。
映像には、車線をまたぐ様子。
運転席の子ども。
男が子どもの手をハンドルに重ねる姿。
そして車のナンバーまで、はっきり残っていた。
午後8時17分。
妻が110番した。
現在地、進行方向、車種、色、ナンバーを伝える。
警察からは、
「絶対に近づかず、追跡もしないでください」
と言われた。
私たちは十分な距離を保った。
ところが、そのミニバンは追い越し車線で大きくふらつき、トラックの直前へ飛び出した。
激しいクラクションが鳴り響いた。
子どもは驚いたのか、ハンドルを急に切った。
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