「救急搬送された夫より、家にいる男のほうが大事なの?」
深夜0時すぎ。
意識を取り戻した私が最初に見たのは、病院の白い天井だった。
帰宅途中、突然胸が苦しくなり、道路脇で倒れたらしい。
通行人が119番してくれたおかげで、私は救急搬送された。
医師からは、
「あと少し発見が遅れていたら危険でした」
と告げられた。
震える手でスマホを見ると、妻への発信履歴が7件。
救急隊員も病院も、妻に何度も連絡していた。
しかし、一度もつながっていなかった。
私たち夫婦は位置情報を共有している。
妻がアプリを開けば、私が自宅ではなく病院にいることは、すぐに分かったはずだ。
午前2時43分。
ようやく妻から届いたメッセージは、たった一言だった。
「今日は帰ってこないで」
意味が分からず電話をかけたが、すぐに切られた。
翌朝、検査を終えた私は、医師の許可を得てタクシーで帰宅した。
玄関前に着いた瞬間、言葉を失った。
私の服、靴、ハンガー、仕事用のジャケット。
それらが道路脇に山のように投げ捨てられていた。
夜露で濡れ、泥まで付いている。
玄関の鍵も交換されていた。
インターホンを押すと、妻が不機嫌そうな顔を見せた。
「今さら何しに来たの?」
「昨日、救急搬送された」
そう伝えても、妻は眉一つ動かさなかった。
「位置情報は見なかったのか?」
私が尋ねると、妻は鼻で笑った。
「病院にいたから何?」
「どうせ飲みすぎか、かまってほしくて大げさにしたんでしょ」
その瞬間、妻の背後を男が横切った。
私のバスローブを着て、私のマグカップを持っていた。
男は以前、妻が「ただの同僚」と説明していた人物だった。
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