「その足、少しだけ下ろしてもらえませんか」
銀座線の車内で、私は杖を握りしめながら、目の前の若い2人に声をかけた。
私は股関節炎を患っていて、長く立っていると脚の付け根に鋭い痛みが走る。
この日も病院帰りだった。
車内はかなり混雑していて、つり革につかまる人の肩が触れ合うほど。
ようやく優先席付近まで移動したものの、そこには若い2人が並んで座っていた。
座っていること自体を責めるつもりはない。
若く見えても、外からは分からない事情があるかもしれないからだ。
ただ、どうしても気になったのが、その座り方だった。
2人とも大きく足を組み、通路側へ脚を突き出している。
私は杖をついているため、その脚を避けながら立つだけでも体勢が不安定になる。
電車が揺れるたび、股関節にズキッと痛みが走った。
しかも2人は、一度こちらを見た。
杖にも気づいたはずだった。
ところがすぐスマホへ視線を戻し、笑いながら話を続けた。
席を譲ってほしい、とまでは思わない。
ただ、せめて足を下ろしてほしい。
それだけだった。
次の駅を出た瞬間、大きく車体が揺れた。
私は杖を踏ん張ったが、体が前へ傾いた。
その時、近くに立っていた女性が慌てて私の腕を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。ちょっと股関節が悪くて……」
すると女性は若者たちの足元を見て、思わず眉をひそめた。
それでも私は騒ぎにしたくなかった。
だから自分から静かに言った。
「すみません。席はそのままでいいので、足だけ下ろしていただけますか。杖が引っかかりそうで危ないんです」
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