「また勝手に停めてる……」
北日本新聞納涼花火大会が始まる少し前、会社の駐車場を確認した私は、見慣れない黒い高級車に気づいた。
そこは来客用ではない。
入口にも、
「従業員専用」
「関係者以外駐車禁止」
「営業時間外は施錠します」
と大きく掲示してある。
それなのに車から降りたのは、子どもを含む6人ほどの団体だった。
彼らは花火用の椅子や飲み物を抱え、有沢橋方面へ歩いていく。
私が声をかけるより先に、父親らしき男が振り返った。
「どうせ今日は会社休みでしょ?」
そう笑うと、そのまま立ち去った。
だが、この駐車場は休みの日でも業務車両が出入りする。
実際、夜には従業員が1人戻ってくる予定だった。
私は感情的に追いかけず、車体とナンバー、時刻、警告看板をスマホで撮影した。
防犯カメラにも、団体が車を停めて立ち去る様子が残っている。
念のため警察にも連絡し、状況を説明した。
そして午後8時。
会社の規定どおり、駐車場のゲートを施錠した。
無断駐車のために特別扱いする理由はない。
入口には緊急連絡先も掲示してあるが、週末の対応はできないと明記されていた。
花火大会が終わった午後10時過ぎ。
例の団体が笑いながら戻ってきた。
しかし、閉じたゲートを見た瞬間、全員の足が止まった。
男は柵を揺らし、掲示板の番号へ何度も電話をかけた。
当然、誰も出ない。
しばらくして警察官が到着すると、男は私たちが車を閉じ込めたと訴えた。
私は翌朝、現場へ向かった。
そして警察官の前で、防犯カメラ映像と入口の写真を提示した。
映像には、男が警告看板を一度見たあと、家族へ笑いながら何かを話す姿まで映っていた。
「知らなかった」という言い訳はできない。
さらに私は、無断駐車によって業務車両が使用できなかった時間と、従業員のタクシー代が記載された書類を差し出した。
男は紙を見たまま黙り込んだ。
「少し停めただけ」
本人にとっては、そうだったのかもしれない。
だが、その“少し”のために困る人がいる。
他人の土地は、花火大会の日だけ無料駐車場になるわけではない。
月曜日の朝。
ようやくゲートが開くと、一家は周囲の視線を避けるように車へ乗り込んだ。
私は最後まで怒鳴らなかった。
ただ、規則どおりに対応し、残っていた証拠を示しただけだった。