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父の押し入れの奥から、宛名のない手紙の束が出てきた。輪ゴムでまとめられたそれは何十通にも及び、開いてみると誰も知らなかった父の秘密が見えてきた。
2026/08/17

実家の片付けをしていて、押し入れの奥に古い菓子箱を見つけた。開けてみると、宛名のない手紙が輪ゴムで束ねて入っていた。数えると、四十通近くあった。

封筒の表には、差出人の名前も、宛先も書かれていなかった。けれど父の字だということは、すぐに分かった。几帳面な、少し右肩上がりのくせ字だった。

一通ずつ日付を確認していくと、一番古いものは母が亡くなった年のものだった。

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一番新しいものは、つい先月の日付だった。父はこの十数年、誰にも言わずに手紙を書き続けていたことになる。

切手は貼られておらず、投函された形跡もなかった。つまり、最初から誰にも読ませるつもりのない手紙だった。それでも捨てずに、ずっと取ってあった。

迷ったが、私は一番古い一通だけを開いてみることにした。

そこに書かれていたのは、特別な出来事の報告ではなかった。「今日は庭の紫陽花が咲いた」「お前が好きだった煮物を、うまく作れなかった」。そんな、ごく普通の日々の出来事が、丁寧な字で綴られていた。

数通読み進めるうちに、それが母への一種の日記のようなものだと分かってきた。母が亡くなったあとも、父は何か報告したいことがあるたびに、こうして手紙を書いていたらしい。

誰かに見せるためではなく、自分の気持ちを整理するためだけに。

すべてを読むことはしなかった。読んでいいものなのか、最後まで迷いが残ったからだ。結局、箱ごとそのまま元の場所に戻し、次に実家に来たとき、父に少しだけ聞いてみようと思った。

父がどんな顔でその話をするのか、まだ私には分からない。

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指定日を過ぎても届かない引っ越しの荷物。伝票を照会すると、住所はたった一文字違いで、見知らぬ他人の家に配達されていたことが分かった。箱の中には、亡き父の位牌も入っていた。
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