小学6年生の花は、父を早くに亡くし、母のしのと2人、古びたアパートで暮らしていた。祖父母の介護に追われた母には、花に構う余裕もない日々が続いた。おさがりの服や質素な暮らしはクラスでも目立ち、かつて仲良くしていた坂本みさから「貧乏」「嘘つき」と言われるようになっていた。教室の花瓶が割れた時も、身に覚えのないことでみさに濡れ衣を着せられ、誰にも信じてもらえなかった。
夏休みのある日、花は図書館の帰りに公園で座り込む老女を見つけた。声をかけると、かすれた声で「水」とこぼれる。花はポケットに残っていた200円で自動販売機のスポーツドリンクを買い、手渡した。「ありがとう。優しい子ね。」老女はそれだけ言って去っていった。
翌朝、花の家の前に見慣れない黒塗りの高級車が止まった。降りてきたのは、あの日の老女だった。「昨日は本当にありがとうね。」千鶴と名乗る彼女は、お礼にと果物を差し出したが、しのは丁重に断った。花も、差し出された果実を「1つ口にしたら止まらなくなりそう」と静かに辞退した。
以来、花と千鶴は図書館で本の話をする仲になった。しのも千鶴の紹介で日勤の仕事に就き、生活は少しずつ変わっていった。
秋、花の読書感想文が優秀賞に選ばれる。しかし「裕福な老女に書かせたのでは」という匿名の告発文が学校に届き、受賞は保留になった。千鶴の推薦文と図書館の閲覧記録により、疑いは晴れた。
それでも、みさは花への嫌がらせをやめなかった。地域の読み聞かせ発表会の壇上で、みさは再び「ずるをしているのでは」と声を上げる。花は本を閉じ、静かに、しかしはっきりと言った。
「花瓶を割ったのは、みさちゃんだよね。」教室での出来事の真相を、初めて口にした瞬間だった。会場は静まり返った。
来賓として登壇した千鶴は「嘘を認めて正そうとする人には、きっと誰かが見ていてくれる」と語りかけた。
冬、花は図書館で読み聞かせのボランティアを始める。ある日、千鶴は療養のため遠くへ引っ越すことを打ち明けた。大切にしていた古い文庫本を花に託し、2人はそれからも手紙で交流を続けている。