「山の空気は体にいいから」
息子はそう言って、優しい笑顔を見せました。
「故郷も恋しいでしょう? 昔住んでいた家なら、きっと落ち着くと思うよ」
その言葉を聞いた81歳の山田和子さんは、少し寂しそうにうなずきました。
長年暮らした故郷。
若い頃、夫と一緒に汗を流し、子どもを育て、地域の人たちと支え合ってきた場所です。
「息子がそこまで考えてくれるなら……」
和子さんは、そう信じていました。
しかし、その言葉の裏に隠されていた本当の理由を、彼女はまだ知りませんでした。
それは母親を思う優しさではなく、ただ一つの目的のためだったのです。
老人ホームの費用を払いたくない。
その現実から逃れるために、息子夫婦は81歳の母親を山奥へ連れて行ったのでした。
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長野県松本市。
山田和子さんは、夫を亡くしてから一人で暮らしていました。
年齢を重ね、足腰は弱くなっていましたが、心だけはいつも前向きでした。
和子さんには一人息子がいました。
幼い頃から大切に育て、苦労を重ねながら学校へ通わせた、かけがえのない存在です。
息子が家庭を持った後も、和子さんは遠くから幸せを願い続けていました。
しかし、数年前から息子夫婦の態度は少しずつ変わっていきました。
電話の回数は減り、会いに来ることも少なくなりました。
そしてある日、息子はこう言ったのです。
「母さん、このまま一人で暮らすのは危ないよ」
和子さんは心配してくれているのだと思いました。
ところが続いた言葉は、想像とは違うものでした。
「老人ホームはお金がかかりすぎる。
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