妻が里帰り出産へ行ったまま消えたのは、15年前でした。
私は当時27歳。初めての子どもができたことが嬉しくて、まだ生まれてもいない娘の服やおもちゃまで買っていました。
ところが妻は妊娠中、次第に落ち着かなくなり、「実家近くで産みたい」と言い出しました。
私は仕事が忙しかったこともあり、その希望を受け入れました。
予定日の数日前。
義父から慌てた電話が入りました。
「娘がいない。病院にも入院していない」
調べると、妻は私たちに黙って助産院へ移り、すでに4日前に女の子を出産していました。
しかも2日後には、赤ちゃんを連れて退院していたのです。
警察にも届けました。
義両親と何度も探しました。
けれど妻も娘も見つかりませんでした。
私は義実家へ手紙を送り続けました。
いつか妻が戻った時に読んでくれるかもしれない。
何より、一度も会ったことのない娘に会いたかったのです。
それから15年。
ある日、自宅の玄関に中学生くらいの少女が現れました。
「○○さんですよね。私、あなたの娘です」
その顔には、妻の面影がありました。
少女は、私が昔妻へ送った黄ばんだ手紙を持っていました。
話を聞くと、妻は失踪後、別の男性と15年間暮らしていたそうです。
娘はその男性を実の父親だと信じて育ちました。
しかし、その家庭で娘は日常的に暴力を受け、母親も守ってくれなかったと話しました。
さらに最近になって、妻が突然娘を祖父母の家へ置いて姿を消したことで、本当の父親が別にいると知らされたのです。
私たちはDNA鑑定をしました。
結果は一致。
目の前の少女は、本当に私の娘でした。
しかも妻が一緒に暮らしていた男性は、娘を自分の実子だと思い込まされていたことも後に判明しました。
妻は、私との婚姻関係を残したまま別の男性と暮らし、娘の父親についてまで嘘をついていたのです。
私は弁護士へ依頼し、離婚を決めました。
娘も「もう母親たちとは暮らしたくない」と言い、私と生活することを選びました。
突然15歳の娘ができた生活は、簡単ではありませんでした。
それでも娘は転校し、受験勉強を続け、高校へ進学しました。
失われた15年は戻りません。
けれど、玄関で初めて「お父さん」と呼ばれた日から、私たちの親子の時間はようやく動き始めたのです。