「残業なんて珍しいですね」
背後から投げかけられたその声に、俺はキーボードを叩く手を止めた。振り返ると、そこには口元を歪めて笑う部下たちがいた。視線の先にあるのは、終業後も一人で残っている俺の姿だ。だが、彼らは知らない。俺がなぜ定時で帰るのか、なぜこの時間まで席に残っているのかを。
「高橋さんって、いつも定時退社ですよね。
そんなに仕事が嫌いなら、リーダーを降りたらどうですか?」
その言葉を先頭に、俺への嫌味は日常になっていた。開発チームのリーダーに就任して三か月。三十六人の部下は、どうやら最初から俺を見下していたらしい。原因は明白だった。部下の一人、小宮の存在だ。役員・井出の親戚という肩書を盾に、入社早々から妙な自信を振りまき、次期リーダーは自分だとでも言いたげな態度を取っていた。
仕事の腕は、正直ひどい。期限直前に中途半端なタスクを放り出し、「高橋さんがやった方が早いですよね」と悪びれもせず俺に押しつける。残業は会社への貢献だと声高に語りながら、本人は集中力が切れるたびに休憩へ消える。注意しても、「休憩しないとパフォーマンスが落ちるんで」と開き直るだけだった。
俺が定時で帰るのには理由がある。時間内に結果を出してこそ一人前だ。だらだら席に残ることが仕事熱心だなどとは思っていない。むしろ無駄を削ぎ落とし、最短で成果を出すのが本物の実力だと信じていた。だから部下たちにも、「仕事が終わったならさっさと帰れ」と言い続けてきた。
しかし小宮は、その言葉を都合よく歪めて広めた。俺の定時退社は「サボりの証拠」だと。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=mZzROenONU0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]