「まあ、現場上がりには適正金額だ。嫌なら辞めろ」
部署の朝礼で飛んできたその言葉に、室内の空気が一瞬で凍りついた。
俺の名前は市川。四十三歳、産業機械メーカーの営業部で課長を務めている。勤続二十一年、現場を歩き回って積み上げてきた信頼だけを武器に、この会社で生きてきた。
だが、そのやり方は、今の上司である小倉部長には気に入られていない。
小倉は三年前に営業部へ来た男だ。ちょうど社長の娘と結婚し、部長に昇進した頃と重なる。以前は真面目で評判が良かったらしいが、結婚後は人が変わったように高圧的になったと、社内では専らの噂だった。
小倉は数字ばかりを重視した。
「無駄を省け」「結果を出せ」「大手と一発で契約してこそ営業だ」
その理屈自体が間違っているとは思わない。だが、相手が小規模だから価値がない、信頼構築に時間をかけるやり方は古い、と切り捨てる姿勢には納得できなかった。
俺は昔から、目先の数字より関係を育てることを優先してきた。
だからこそ、年単位で通い続けている取引先もある。中でも特に印象的だったのが、ある町工場だった。
最初は冷たかった。
社長は職人気質で、「うちは大手の下請けじゃない。話すことはない」と、こちらを寄せつけなかった。手土産すら受け取られない。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=I8ihOv_JcY4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]