俺は足立、五十五歳。地方の小さな町で、社員五人だけの町工場を営んでいる。
作っているのは、自動車のエンジンに入る燃料噴射ノズルだ。親指ほどの金属部品だが、先端には髪の毛より細い穴が何本も空いている。わずかでも穴の角度や深さを誤れば、燃焼は乱れ、出力も燃費も排ガスもすべて狂う。
ミクロン単位の精度だけでは足りない。素材の癖を読み、加工熱で金属が膨らむ分まで見越して削る必要がある。
そのノズルは、名の通った大手自動車メーカー五社すべてで採用されていた。
自分が作った部品が、あの大企業の車を走らせている。その事実には、もちろん誇りがあった。だが、現実は甘くない。納品のたび、担当者は当然の顔で受け取り、検品もそこそこに次の発注書を置いていく。部品が重要であることと、それを作る人間が敬われることは、まったく別の話だった。
五社の中でも最大手の担当である滝本は、とくに態度がひどかった。
書類を机に放り投げるように置き、「下請けは期日通り納品さえすればいい」とでも言いたげな顔をする。単価は、いつも向こうが決める。長年、安く買い叩かれてきた。
それでも俺が受けてきたのは、断れば工場が立ち行かなくなるからだ。
社員五人の生活を守らなければならない。だからこそ俺は、納品のたびに単価の見直しを申し入れてきた。
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