57歳、未婚の高橋誠。
中高年向けの婚活バスツアーに参加した彼には、揺るぎない自信がありました。
「俺は童顔だから若く見える」
職場の若い社員から「50代には見えませんね」と言われるたび、それを社交辞令とは考えませんでした。
むしろ、
「20代や30代の女性からも十分モテる」
と信じていたのです。
最初に話した41歳の女性には、ほとんど興味を示しませんでした。
会話が続かないと、
「こういう場では女性からアピールするものじゃないですか?」
と相手に原因があるような態度まで取ります。
ところが次に現れた46歳の薬剤師・みずほを見て、態度は一変しました。
落ち着いた雰囲気の美しい女性でした。
みずほが挨拶代わりに、
「高橋さんもお若く見えますね」
と言うと、高橋は待っていましたとばかりに語り始めます。
「俺、よく30代に間違われるんですよ」
「体内年齢も38歳でした」
「同年代のおじさんより体力ありますから」
みずほはただ穏やかに相槌を打っていただけでした。
しかし高橋の中では、すでに「脈あり」に変換されていました。
午後は海辺で潮干狩り。
ここで若さを見せようと張り切った高橋は、高い位置から格好よく塩を振りました。
ところが強風で塩が自分の顔に直撃。
さらに長靴が泥にはまり、片足を泥水へ。
もう一度挑戦すると、今度は貝が吹いた海水を顔面に浴び、そのまま尻もちをついて全身泥だらけになりました。
着替えを持っていなかったため、売店で大きな文字の入ったTシャツとハーフパンツを買うことに。
みずほは
「お怪我がなくて何よりです」
と声をかけました。
それさえ高橋は、
「俺を心配している。やっぱり脈ありだ」
と解釈しました。
帰りのバス。
高橋は隣の席を空けてみずほを待ちました。
彼女はその前を通り過ぎました。
それでも、
「人目があるから恥ずかしいんだな」
と思い込みます。
やがてカップリング発表が始まりました。
3組の成立が発表されましたが、高橋の番号は呼ばれませんでした。
それでもまだ、
「みずほさんはあえてカードを出さなかったんだ」
と考えました。
東京駅に着くと、高橋は彼女を追いかけます。
「この後、ワインでもどうですか?」
みずほの返事は短いものでした。
「用事がありますので、失礼します」
彼女はそのまま人混みへ消えていきました。
それでも高橋は最後まで、自分が断られたとは認めませんでした。
「あの女は俺の若さに引け目を感じたんだ」
婚活で彼が向き合う必要があったのは、女性の年齢ではありません。
自分自身をどう見ているのか。
そして、相手からどう見えているのか。
その2つの間にある大きなズレだったのです。