長時間にわたるフライトを終えた桜は、ゆっくりと息を吐いた。
十数時間、狭い座席で同じ姿勢を続けていた体には、重い疲労が残っていた。背中も腰も固まったように感じる。それでも、彼女の歩みには一切の迷いがなかった。
ここはアメリカの国際空港。
巨大なガラス窓から差し込む夕暮れの光が、広大なロビーを黄金色に染めている。世界各国から訪れた人々の声が飛び交い、空港独特の緊張感と活気が混ざり合っていた。
桜は静かに入国審査の列へ並んでいた。
服装は、飾り気のない灰色のジャケットと黒いパンツ。高価なアクセサリーも身につけていない。髪も簡単にまとめただけだった。
誰が見ても、どこにでもいる日本人女性。
しかし、彼女には誰にも知られていない肩書きがあった。
日本の司法を支える最高裁判所長官。
今回の渡航目的は、国際司法会議への出席だった。世界各国の法曹関係者が集まる重要な場で、日本を代表する立場として招かれていたのである。
だが、今だけはその重責を忘れたかった。
「早くホテルに入り、温かいシャワーを浴びたい」
桜が願っていたのは、それだけだった。
その時だった。
「おい。お前だけ、来い」
突然、低く威圧的な声が響いた。
桜は最初、自分に向けられているとは思わなかった。
しかし次の瞬間、太い手が乱暴に彼女の肩をつかんだ。
振り返ると、そこには大柄な空港警察官が立っていた。
胸元の名札には「ミラー」と書かれている。
男の目には、明らかな敵意が浮かんでいた。
まるで彼女を人間ではなく、疑うべき対象として見ているようだった。
「私……でしょうか?」
桜が戸惑いながら尋ねる。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=2_4qMzLcUas,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]