「開けて……お願い……開けて……」
震える声が、固く閉ざされた浴室のドアの向こうから聞こえてきた。
「嫌……触らないで……」
その瞬間、さやかの足が止まった。
聞き間違えるはずがなかった。
それは、78歳になる母・文子の声だった。
胸の奥が締め付けられるような恐怖が込み上げる。
「お母さん……?」
震える手で浴室のドアノブを握る。
しかし――回らない。
鍵がかかっていた。
さやかの心臓が激しく鳴り始めた。
なぜ?
なぜ母を入浴させているだけなのに、浴室に鍵をかける必要があるのか。
家の中には、男性介護士の大樹と母の二人しかいない。
頭の中に、最悪の想像が浮かんでは消えていく。
「まさか……そんなこと……」
さやかは必死に否定しようとした。
大樹は、今まで誰よりも母を大切にしてくれた人だったからだ。
しかし、今聞こえた母の声は、どう考えても普通ではなかった。
「触らないで」
「やめて」
その言葉が、耳から離れなかった。
さやかは強く拳を握り、浴室のドアを叩いた。
「大樹さん! 私です! 開けてください!」
しばらく沈黙が続いた。
すると中から、慌ただしく動く音が聞こえた。
何かを急いで片付けているような音。
数十秒後――
カチャリ。
ようやく鍵が開いた。
ドアが開いた瞬間、さやかは息を飲んだ。
そこにいた大樹の顔は、いつもの無表情ではなかった。
焦り。
動揺。
そして、どこか悲しそうな目。
「……早かったんですね」
大樹は静かに言った。
しかし、さやかは見逃さなかった。
彼の手の甲には、赤い引っかき傷があった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=GzR8R0uS4G4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]