東京駅から名古屋へ向かう新幹線の車内で、私はいつものように指定された席へ向かいました。
その日は仕事の研修に参加するための移動でした。朝から予定が詰まっており、少しでも体調を崩さないよう、事前に座席選びにも気を配っていました。
私が予約したのは、普通車の通路側の席。
窓側ではなく、あえて通路側を選んだ理由があります。
それは、ただ「景色を楽しみたい」「立ち上がりやすい」という単純な理由ではありませんでした。
しかし、その事情を私は誰にも話すつもりはありませんでした。
指定席とは、料金を支払って自分が確保した場所です。もちろん、困っている人がいれば助けたい気持ちはあります。でも、自分にも守らなければならない事情がある。
そのことを、まさか新幹線の中で説明することになるとは思ってもいませんでした。
席に座って数分後、隣に座っていた女性が突然声をかけてきました。
「すみません、夫と席を交換してもらえませんか?」
女性の隣には、7歳くらいの男の子が座っていました。
話を聞くと、女性の席は私の隣の窓側。息子さんは窓側の席に座っていましたが、夫の席だけが車両後方に離れているとのことでした。
「この子、知らない人と同じ列だと怖がってしまうんです。
家族で並んで座りたいので……」
女性は申し訳なさそうな表情を浮かべていました。
ですが、私はすぐに答えました。
「申し訳ありません。この席は必要なので、変わることはできません」
女性は少し驚いたような顔をしました。
「でも、夫の席も普通車ですよ。窓側ですし、どこに座っても同じじゃないですか?」
確かに、座席の種類だけを見れば同じ普通車です。
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