祖母が亡くなって、まだ3日しか経っていなかった。
叔母は私の前に一枚の書類を叩きつけた。
「これに署名しなさい」
それは、相続放棄の同意書だった。
「あなたのお母さんは、とっくにこの家を捨てたの。娘のあなたに相続する権利なんてないわ」
祖母の葬儀が終わったばかりなのに、叔母はすでに不動産会社と話を進めていた。
築40年の古い家だが、駅に近いため、土地だけでもかなりの価値があるらしい。
私は署名を拒み、祖母の部屋を整理する時間を求めた。
すると叔母は鼻で笑った。
「ゴミしかないわよ。明日には買い手が来るから、今日中に荷物をまとめて」
悔しかった。
母は生前、祖母について多くを語らなかった。
ただ一度だけ、
「おばあちゃんには、返しきれない恩がある」
そう言って泣いたことがあった。
机の引き出しを整理していると、色あせた紙が一枚落ちた。
古いJUSCOのレシートだった。
日付は1996年10月20日。
時刻は午前11時29分。
合計金額は613円。
キャベツとサツマイモ。
どこにでもある買い物の記録だ。
だが、私はその頃まだ生まれていない。
裏返すと、祖母の字で短い言葉が書かれていた。
「私たちが初めて家族になった日を、忘れないで」
その瞬間、後ろから叔母がレシートを奪おうとした。
「そんなゴミ、捨てなさい!」
私は反射的に胸元へ隠した。
叔母の顔は青ざめていた。
ゴミを見た人間の反応ではない。
翌朝、叔母は弁護士と買い手を連れてきた。
「もう時間切れよ。この家は私が相続するの」
私は祖母の部屋を最後まで調べた。
押し入れの奥から、小さな鉄の箱が出てきた。
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