「今日の夜は、とんかつにしよう」
そう決めた日の夕方。
冷蔵庫から取り出したのは、朝スーパーで買った新鮮なキャベツだった。
揚げたてのとんかつ。
その横には山盛りの千切りキャベツ。
想像しただけで、お腹が空いてくるような定番の組み合わせ。
私はいつものように、キャベツをまな板の上に置こうとした。
その時だった。
「……え?」
袋の中で何かが動いた気がした。
最初は気のせいだと思った。
水滴が動いたのかもしれない。
葉っぱが重なって揺れただけかもしれない。
でも、よく見ると……
緑色の葉の間に、黒い影があった。
近づいて見ると、そこには大きな虫が。
「うそ……いつからいたの?」
思わず声が出た。
買ってきてから数時間。
もしかしたら、収穫された時から一緒だったのかもしれない。
それとも、袋詰めされる前からキャベツの中に隠れていたのか。
考えれば考えるほど、包丁を持つ手が止まった。
今日の夕飯は、とんかつ。
夫も楽しみにしている。
でも、このキャベツを使う勇気が出ない。
もちろん、野菜に虫がいること自体は珍しいことではない。
むしろ農薬を減らして育てられた野菜だからこそ、虫がつく場合もある。
頭では分かっている。
分かっているけれど……
目の前にいる現実は別だった。
「キャベツなしのとんかつにする?」
「でも、せっかく買ったのにもったいない……」
キッチンでしばらく悩んだ。
捨てるのは簡単。
でも、農家さんが育てた野菜を丸ごと無駄にするのも違う気がした。
私は一度深呼吸して、キャベツを袋から出すことにした。
葉を1枚ずつ確認する。
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