「家が燃えている」
その電話を受けた瞬間、頭の中が真っ白になった。
最初は何かの間違いだと思った。
「小さなボヤだから大丈夫」
そう言われると思っていた。
でも、現場に着いた俺の目の前に広がっていたのは、想像を遥かに超える光景だった。
黒く焼け焦げた柱。
崩れ落ちた屋根。
水浸しになった庭。
そして、そこに停めていた俺の大切な車。
赤いボディが自慢だった愛車も、見る影もなくなっていた。
消防隊員が消火活動を続ける中、俺はただ立ち尽くしていた。
「……全部、なくなった」
家だけじゃない。
車も。
長年集めてきたコレクションも。
写真も。
思い出の品も。
俺が人生で少しずつ積み上げてきたものが、一晩で灰になった。
原因は、父だった。
父は数年前から認知症の症状が出始めていた。
以前なら絶対に忘れなかったことを忘れるようになった。
「火を消したつもりだった」
後から父はそう話した。
料理をした後、コンロの確認をしたつもりだった。
でも、実際には火が残っていた。
認知症による火の不始末。
それが、今回の火災の原因だった。
正直、最初は怒りが込み上げた。
なぜ確認しなかったのか。
なぜもっと早く対策しなかったのか。
なぜ俺が全部失わなければならないのか。
焼け跡を見るたび、悔しさで胸が苦しくなった。
周囲からは、
「施設に入れるべきだったんじゃないか」
「家族なのに気づけなかったのか」
そんな言葉も聞こえてきた。
でも、一番苦しんでいたのは父だった。
焼けた家の前で、父は小さな声で言った。
「俺のせいで、お前の大事なものを全部壊したな……」
その表情を見た瞬間、怒りだけでは向き合えないことに気づいた。
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