遺品整理をしていた引き出しの奥から、一通の古い手紙が出てきた。
消印は三十年前。差出人の名前は「田村」とだけ書かれていた。封を開けた形跡はなかった。
父は、この手紙を一度も読まなかったのだろうか。
半年前に父が亡くなり、実家の片付けをしていた私は、その手紙を手に取ったまま、しばらく動けなかった。震える字で、こう書かれていた。
「あの時は本当にすまなかった。もう一度会いたい」
何の話なのか、私にはまったく心当たりがなかった。父の口から「田村」という名前を聞いた記憶もなかった。
封筒の裏には、古い住所だけが記されていた。今もそこに住んでいるとは限らない。それでも気になって、休みの日にその住所を訪ねてみることにした。
たどり着いたのは、古い平屋の一軒家だった。表札には「田村」と書かれていた。呼び鈴を押すと、杖をついた高齢の男性が出てきた。
「田村さん、ですか」
男性は私の顔をじっと見て、目を見開いた。
「まさか……正夫さんの、息子さんか」
正夫というのは、亡くなった父の名前だった。
田村さんは私を家に招き入れ、お茶を淹れてくれた。
手が少し震えていた。
「その手紙、読んだんだね」
田村さんは、ゆっくりと話し始めた。
「お父さんとは、若い頃、同じ工場で働いていた仲間だった。二人ともまだ二十代で、私は独立して店を持ちたくて、お父さんに開業資金を借りたんだ」
田村さんはその後、経営に失敗し、借りたお金を返せないまま、逃げるように連絡を絶ってしまったのだという。
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