「うちの両親も、あの家に住むことになったから」
夫からそう聞かされた時、私は言葉を失いました。
新居は夫婦2人で暮らすため、私が自分のお金で購入した一軒家です。
夫の宏太は音楽で成功することを夢見て仕事をほとんどせず、今の家賃、光熱費、食費、さらには彼が使うギターまで私が負担していました。
それでも私は、いつか夢がかなえばいいと思って支えてきました。
だからこそ、新居についても2人で部屋割りや家具まで相談していたのです。
ところが宏太は突然、
「俺の親なんだから住む権利がある」
と言い出しました。
私が「せめて相談してほしかった」と伝えると、
「俺を見下してるのか」
「嫁の物は家族の物だろ」
と逆に怒り始めます。
さらに驚いたのは、その後でした。
「両親だけじゃなく、バンドメンバーも住ませる」
しかも3人から、すでに1人30万円ずつ“初期費用”として受け取っていたのです。
私が許可したことは一度もありません。
当然反対すると、宏太はまた離婚届を持ち出しました。
「嫌なら離婚だ」
実はこれが初めてではありませんでした。
宏太は自分の思い通りにならないたび、離婚届を書いて私を脅してきたのです。
だから今回は、私も署名しました。
そして役所へ提出しました。
宏太が実家にいる間に離婚は成立。
新居は、完全に私1人の家になりました。
それを知らない宏太は入居当日、当然の顔で玄関へやって来ました。
「早く開けろ。今日から住むんだから」
私はドアを開けませんでした。
「あなた、赤の他人でしょ」
宏太は笑いました。
「何言ってんだよ。俺たち夫婦だろ」
そこで伝えました。
「離婚届、もう提出したよ。離婚成立してるから」
ようやく夫の顔色が変わりました。
「あれは脅しだろ! 本気じゃなかった!」
でも私には関係ありません。
自分で署名した離婚届を何度も武器にしてきたのは宏太です。
さらにバンド仲間へ事情を説明すると、3人とも当然のように入居を断念し、90万円の返金を要求しました。
義両親にも私から事実を伝えました。
幸い、住んでいたマンションはまだ解約していませんでした。
事情を知った義両親は私に謝り、今度は宏太に激怒しました。
家も失い、バンド仲間への90万円、両親や私への借金まで残った宏太。
最後にはバンドからも外されました。
それでも私は、もう支えませんでした。
私は夫の夢を応援していたつもりでした。
でも彼にとって私は、家も生活費も与えてくれる便利な存在になっていたのです。
新居の玄関を開けなかったあの日。
私は家を守っただけではありません。
ようやく、自分のお金と自分の人生を「自分のもの」に戻したのです。