「お前、昔……俺のこと好きだったよな?」
鏡の前でそう呟いた男――田中秀一、六十歳。
洗面所の白い照明に照らされた顔には、深く刻まれた皺がある。しかし、本人の目に映っているのは、老いた自分ではなかった。
そこにいたのは、四十年前の高校時代の田中だった。
ネイビーのジャケットは、今日の同窓会のために新しく購入したものだ。少し細身のデザインで、若者が着れば爽やかに見える服だった。
田中は鏡の前で腹を引っ込め、ベルトの穴を一つ締め直す。
「まだまだいけるな」
満足げに笑う。
定年退職してから、家ではいつも楽なジャージ姿だった。しかし今日は違う。現役時代に営業部長として人前に立っていた頃の感覚が戻ってくるようだった。
洗面台の横には、一枚の葉書が置かれていた。
「卒業から約四十年。久しぶりに青春の時間を語り合いましょう」
幹事から届いた同窓会の案内。
その文字を見た瞬間、田中の胸に昔の記憶が蘇った。
高校時代、彼は間違いなくクラスの中心人物だった。
運動神経が良く、少し不良っぽい雰囲気を持ち、文化祭でも体育祭でも目立つ存在だった。
女子からの視線。
男子からの羨望。
田中の中では、その記憶は四十年経った今も色褪せていなかった。
むしろ会社を退職し、「部長」という肩書きを失った現在だからこそ、過去の栄光はより眩しく感じられていた。
「みんな、きっと老け込んでるだろうな」
田中は勝手に想像する。
昔地味だった男たちは、今では冴えない老人になっている。
女性たちも、きっと普通のおばさんになっている。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=rozvmCQVWf4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]