買い物を終えて駐車場へ戻った瞬間、私は思わずため息をついた。
また、あの黒いベンツだった。
しかも今回で3回目。
車体は白線を大きく越え、隣の通路にはみ出している。
この駐車場はただでさえ幅が狭い。
大きな車がこんな停め方をすると、通路を通る車は何度も切り返さなければならず、軽自動車ですらギリギリだった。
1回目は、
「たまたま急いでいたのかな」
と思って何も言わなかった。
2回目は管理会社へ、
「通行の邪魔になる車があります」
とだけ伝えた。
そして3回目。
さすがに黙っていられなかった。
ちょうど車へ戻ってきた50代くらいの男性に、私は静かに声をかけた。
「すみません。車がかなり駐車枠から出ていますよ」
すると男性は自分の車を一度見た。
謝るのかと思った。
ところが返ってきたのは、
「通れるだろ?」
だった。
「かなり狭くなっています。さっきも1台、何度も切り返していました」
そう伝えると、男性の表情が急に険しくなった。
そして私の顔をじっと見て言った。
「俺が誰か分かってる?」
私は一瞬、意味が分からなかった。
男性は続けた。
「余計なこと言わない方がいいよ」
どうやら自分には何らかの肩書きや人脈があると言いたいらしい。
でも私は、その人が本当に議員なのか、会社役員なのか、それともただそう匂わせているだけなのか知らない。
そもそも、そんなことはどうでもよかった。
問題は、
「誰なのか」
ではなく、
「車が通路を塞いでいる」
という事実だからだ。
私は言い争うのをやめた。
スマホを取り出し、車全体と白線、通路の幅が一緒に写るように写真を撮った。
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