「これ、なんで×なの?」
学校から帰ってきた娘が、少し不満そうにテスト用紙を差し出した。
問題にはこう書かれていた。
「父と娘の年齢の合計は99歳です。父は50歳です。娘は何歳ですか?」
娘の答えは、
「99-50=49歳」
どう見ても計算は合っている。
ところが、その横には大きな赤い「×」。
さらに先生の字で、
「よく問題を読もう!」
と書かれていた。
私は思わず問題を3回読み直した。
「……49歳じゃないの?」
娘も首をかしげた。
「私もそう思った。でも先生が、“父が50歳なのに娘が49歳っておかしいでしょう”って」
なるほど。
先生が言いたいことは分かる。
現実の親子として考えれば、父と娘の年齢差が1歳というのは普通ではない。
でも、それなら私は別の疑問が出てきた。
これは算数の問題だ。
問題文に書かれている条件は、
合計99歳。
父50歳。
それだけ。
ならば計算上の答えは49歳になる。
「親子だから年齢差を考えなさい」という条件は、どこにも書かれていない。
私は娘に言った。
「明日、怒らなくていいから先生に聞いてみたら?」
そして翌日。
娘は答案を持って先生のところへ行った。
「先生、49歳がダメなら、正しい答えは何歳ですか?」
先生は少し困った顔をしたという。
「いや、だから……50歳のお父さんに49歳の娘はいないでしょう?」
娘はそこで、私と一緒に確認した問題文を指さした。
「でも、“普通の親子として考えなさい”とは書いてないですよね?」
先生はしばらく答案を見つめていた。
さらに娘は続けた。
「それに、49歳が違うなら、書いてある数字だけでは娘の年齢を出せないと思います」
教室にいた何人かの子も、
「確かに」
「俺も49って書いた」
と集まってきた。
先生はもう一度問題集と解答欄を確認した。
そして数分後。
「……これは問題の作り方が悪かったね」
そう言って、娘の大きな赤い「×」を二重線で消した。
49歳の答えには、今度は赤い丸。
もちろん、先生を責めたいわけではない。
先生が感じた違和感も分かる。
ただ、子どもに「よく問題を読もう」と言うなら、大人も問題文に何が書かれているのかを正確に見なければならない。
帰宅した娘は、丸に直された答案を見せながら笑った。
「お母さん、結局49歳でよかった」
私は笑いながら答えた。
「計算より難しかったのは、問題文のほうだったね」
たった6点の算数問題。
でも娘が学んだのは引き算だけではなかった。
「先生が×をつけたから、自分が間違っている」
そう決めつけず、自分で考え、理由を確認すること。
もしかすると、その6点よりずっと大事な勉強になったのかもしれない。