機内でカップラーメンのふたを開けた瞬間、視線を感じた。
前の座席の隙間から、赤ちゃんがこちらをじっと見つめていた。
湯気の向こうに見えるのは、ぷっくりした頬と大きな瞳。私が麺を持ち上げると目が右へ動き、器を置くと視線も下がる。
あまりにも真剣な顔で見てくるので、思わず箸が止まった。
「ごめんね。これはまだ早いかな。あと10年くらい我慢してね」
小声で話しかけると、赤ちゃんは意味が分かったように唇を尖らせた。
その様子が可愛くて笑っていると、前の席から母親が慌てて顔を出した。
「すみません!ずっと見てしまって……」
母親は何度も頭を下げ、赤ちゃんを抱き直した。
聞けば、赤ちゃんにとって初めての飛行機だった。離陸前から落ち着かず、母親は周囲に迷惑をかけないよう、ずっと立ったり座ったりしていたという。
ところが後方の男性が、不機嫌そうな声を上げた。
「こっちは休みたいんだから、ちゃんと前を向かせてくれない?」
母親の表情が一気に曇った。
赤ちゃんは驚いて泣き出し、母親はさらに小さくなって謝った。
私はラーメンのふたを閉じ、男性を刺激しないよう静かに言った。
「赤ちゃんは声を出したわけでも、座席を蹴ったわけでもありません。こちらを見ていただけです」
すると通路側に座っていた女性も振り返った。
「私も気になりませんよ。むしろ、とても静かにしています」
近くにいた客室乗務員も状況を確認し、母親に声をかけた。
「お母さま、ずっとお気遣いいただいていますね。何かお手伝いできることがあればお知らせください」
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