「えっ…これ、私には難しいかもしれない」
コンビニのレジ前で、70代くらいの女性が小さな声でつぶやいた。
私はその後ろに並んでいた。
昼12時過ぎ。
仕事帰りの人。
買い物途中の主婦。
学校帰りの学生。
いつものように数人が並ぶ普通のコンビニだった。
しかし、その日は少し違った。
レジ横に設置された新しい硬貨投入機。
「硬貨は1枚ずつ入れてください」
そう書かれた案内を見て、女性は財布の中を何度も確認していた。
「10円、20円…あと5円……」
小さな手で硬貨を取り出す。
でも機械は一度にたくさん入れることができない。
1枚。
また1枚。
後ろには列が伸びていく。
「早くしてよ」
そんな空気を感じたのか、女性の手が少し震え始めた。
私は思った。
便利にするための機械なのに、誰かにとっては新しい壁になっているのではないか。
もちろん電子マネーを使う人には関係ない。
スマホをかざせば数秒で終わる。
でも現金を大切に使ってきた高齢者にとっては、毎日の買い物の最後に新しい操作を覚えなければならない。
女性は何度も画面を確認した。
「昔は財布から出して渡すだけだったのにね…」
その言葉が妙に胸に残った。
すると店員さんがすぐに近づいた。
「大丈夫ですよ。ゆっくりで大丈夫です」
女性は申し訳なさそうに頭を下げた。
「後ろの人を待たせちゃうから…」
でも店員さんは笑顔だった。
「困った時は声をかけてくださいね」
その一言で、女性の表情が少し柔らかくなった。
数分後、会計は無事終了。
女性は何度もお礼を言いながら店を出ていった。
その後、レジにいた店員さんに聞いてみた。
「この機械になってから大変じゃないですか?」
すると店員さんは少し考えて答えた。
「実は、機械より大事なのは……」
そこで店員さんが指差したのは、レジ横に置かれた小さな案内だった。
そこには、高齢のお客様への対応について書かれていた。
便利な機械を導入するだけでは解決しない問題。
必要なのは、使えない人を置いていかない工夫だった。
後日、その店舗で行われた対応を知った私は驚いた。
レジ前の混雑を減らすために追加された新しい仕組み。
そして高齢のお客様から届いた1通の声。
そこに書かれていた内容を見た店長は、静かに動き始めた――。