「……え?」
駐車場に戻った瞬間、私は言葉を失った。
そこに停めていた愛車が、朝とは全く違う姿になっていたからだ。
シルバーの小さな車。
毎日の通勤に使っていた大切な相棒だった。
傷は1か所ではなかった。
ボンネット。
フロントガラス周辺。
ドア部分。
車体全体に、何本もの線が刻まれていた。
最初は何が起きたのか理解できなかった。
「誰かがぶつけた?」
そう思った。
でも違う。
これは事故の傷ではない。
明らかに誰かの手によってつけられたような跡だった。
駐車場は普通の月極スペース。
短時間だけ停めていたつもりだった。
買い物を終えて戻っただけ。
それなのに、数時間後には車が傷だらけになっていた。
怒りより先に、悲しさが込み上げた。
車はただの道具かもしれない。
でも、毎日乗ってきた人にとっては思い出が詰まっている。
家族との旅行。
仕事帰りの夜道。
子どもを送った朝。
全部この車と一緒だった。
私は深呼吸して、まず写真を撮った。
感情のまま動いてしまえば、何も残らない。
傷の位置。
車全体の状態。
駐車場所。
時間。
できる限り記録した。
そして管理会社へ連絡した。
「防犯カメラはありますか?」
確認すると、駐車場周辺にはいくつかのカメラが設置されていた。
数日後。
映像確認が始まった。
私は結果を待った。
「いたずらなのか」
「近所のトラブルなのか」
「偶然なのか」
いろいろな可能性が頭をよぎった。
しかし、映像を確認した担当者の表情が変わった。
「少し確認していただきたいものがあります」
そう言われ、私は画面を見た。
そこには、傷がついた時間帯に駐車場へ近づく人物の姿が映っていた。
さらに、手に持っていたものも確認できた。
その瞬間、私はただのいたずらではなかったことを理解した。
警察にも相談することになった。
現場写真。
防犯カメラ映像。
修理見積書。
必要な証拠を一つずつ整理した。
最初は、
「泣き寝入りするしかないのかな」
と思っていた。
でも、証拠を残して冷静に対応したことで、状況は少しずつ変わっていった。
後日。
警察から連絡が入った。
「確認できたことがあります」
その一言で、私はスマホを握り直した。
犯人探しだけが目的ではなかった。
なぜこんなことが起きたのか。
そして、同じことを繰り返さないために何が必要なのか。
最後に判明した事実は、周囲が想像していたものとは違っていた。
駐車場で起きた1台の車への被害。
でも、その裏には人間関係と小さなすれ違いが隠されていた――。