「限界だ。母さん、出てってくれ」
息子の京田が吐き捨てるように言ったその一言を、私はしばらく理解できなかった。正直、耳を疑った。
すると隣にいた嫁の舞子が、追い打ちをかけるように淡々と続ける。「お母さんには、明日から施設に入ってもらいます。もう一人で暮らすのは危ないですから」
――え?今なんて言った?
つい昨日まで、生活費を毎月三十万円も私に払わせていた二人が、今度は「認知症の老人扱い」をして家から追い出そうとしている。
私はゆっくり息を吐き、二人の顔を見た。
「その決断……後悔しないでね?」
京田は鼻で笑った。「しねぇよw」
その瞬間、私は心の中で静かに決めた。――ああ、この子は本当に私を舐めているんだな、と。
私の名前は生駒さゆり。六十九歳。
今は地方都市で一人暮らしをしている。
数か月前、夫の恭四郎が亡くなった。長年連れ添った夫を失った悲しみは大きかったが、それでも私は完全に気落ちしていたわけではない。
なぜなら、私は若い頃から自分の足で人生を切り開いてきた人間だからだ。
学生時代、パン屋でアルバイトをしていた私は、その仕事に魅せられた。いつか自分の店を持ちたい。
その一心で修業を重ね、三十代で小さなパン屋を開いた。
「リリーベーカリー」
駅前の小さな店だったが、食パンとクロワッサンが評判になり、店は瞬く間に人気店になった。
二店舗目、三店舗目……。
気がつけば県内に十店舗を構えるパン屋になっていた。
今は娘の彩花に経営を任せ、私は半分引退した身だ。
夫の恭四郎と出会ったのは、私が三十九歳の頃だった。
彼は小麦の卸業者の担当者。穏やかで誠実な人だった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=OLy4SAed9uw,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]