「他銀へ変える?どうぞどうぞ」
課長代理の藤堂啓介が鼻で笑った瞬間、経営銀行第一支店の空気は一瞬だけ軽くなったように見えた。
古びた革鞄を抱えた老紳士、久遠勘三郎は、ただ静かに立っていた。
肘に当て布のあるジャケット、磨き込まれてはいるが年季の入った靴、色褪せた鞄。
その姿だけを見れば、どこにでもいる近所の老人にしか見えなかった。
新人行員の篠崎みづきだけは違った。
数日前、勘三郎が妻の入院費用として百万円を引き出しに来た時、彼女は丁寧に本人確認を行い、足元を気遣い、温かいお茶まで差し出した。
「いい窓口さんだ」
勘三郎は穏やかにそう言って、深く頭を下げて帰っていった。
だが、その背中が自動扉の向こうへ消えた途端、同期の神崎壮太が吹き出した。
「あんな貧乏くさい爺さん、適当でいいのに」
さらに神崎は、店内で撮った勘三郎の後ろ姿を匿名アカウントに投稿しようとしていた。
みづきは必死に止めたが、神崎は反省するどころか、彼女の家庭事情まで見下す言葉を吐いた。
その後、支店に異動してきた藤堂もまた、神崎と同じ考えの持ち主だった。
預金額で客を勝手に分類し、利益にならない客を窓口から遠ざける。
そんな私的なルールが、支店の中で静かに広がっていった。
再び勘三郎が訪れた日、みづきはいつものように応対しようとした。
しかし藤堂は端末を操作し、勘三郎を神崎の窓口へ回した。
神崎は印鑑の形が違う、解約理由が弱い、説明書を一項目ずつ確認する必要があるなどと言い、何度も書類を書き直させた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=1lpwD3pvRqg,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]