――「海外移住することにした。店は優秀な次男に任せる」
ある日、両親はまるで天気の話でもするかのようにそう言い放った。
その瞬間、私は思わず笑ってしまった。
「大賛成よ」と。
二十年間、朝四時から夜遅くまで働き続けてきた私を、両親はまるで道具のように扱ってきた。
その挙げ句、店から追い出すような形で弟にすべてを譲るという。
しかし――
彼らはまだ知らない。
この店の本当の姿を。
私の名前は藤井志穂、五十二歳。
創業八十年、県内でも名の知られた高級料亭「下流」は、私の実家だ。
四季折々の食材を使った繊細な懐石料理が評判で、地元の政財界の人間も通う名店として知られている。
だが、その味を守ってきたのが誰なのか、両親は理解していなかった。
夜明け前の厨房。
冷たい水で米を研ぎ、出汁の香りを確かめながら仕込みを指揮するのは父ではなく私だ。
「志穂さん、今日の魚、最高ですよ」
祖父の代から働く板長の源さんが、威勢よく声をかけてくる。
父の代になってから味が落ちたと評判だった店を、二十年前、私が戻ってきて立て直したことを彼はよく知っている。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aOokRIIBjW0&pp=0gcJCaIKAYcqIYzv,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]