東京郊外の小さな会社、聖は商事の経理課。毎朝、誰よりも早く明かりが灯るオフィスで、二十六歳の美咲は今日も分厚い帳簿と向き合っていた。かかとのすり減った靴下、手先に残る小さな傷。だがその顔には微笑みが浮かび、どんな困難にも屈しない意志がにじんでいた。昼休み、先輩の誘いを笑顔で断り、おにぎりをかじるその姿は、静かで確かな覚悟を感じさせる。
しかし、その日、運命は突然、美咲を襲った。母の入院費、三十万円がまだ支払われていないという通知が届く。残された全財産を注ぎ込む覚悟で、美咲はATMの前に立った。指先は震え、心臓は破れそうに高鳴る。母の命の前に、もう自分に残された選択肢はなかった。
夜、病院の廊下で息も絶え絶えの男性がストレッチャーで運ばれてくる。急性心筋梗塞、手術が必要だが、前払いがなければ始められないという。美咲の胸に、母の青白い顔が重なった。「この人も命をつなぐべきだ」。迷いはなかった。彼女は震える手で三十万円を差し出し、男性は手術室へと運ばれていった。
数日後、聖の会社前に黒塗りのベンツが列をなし、静まり返ったオフィスに、威厳ある中年男性が降り立った。
彼の名は佐藤賢治、五十九歳、国内有数の大企業会長。オフィスの空気が一瞬で張り詰める。会長は美咲の目を見つめ、深く頭を下げた。誰もが息をのむ瞬間、数日前に命を救った女性社員への感謝の意を表したのだ。
だが美咲は首を横に振る。「会長、私はお金のためにしたのではありません。あの三十万円で十分です」。会長は目を見張る。三百万円の封筒を差し出しても、彼女は頑なに拒んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=syslqY0nTzk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]