朝、出勤前のキッチンはいつも戦場だった。
私は髪を結びながら、夫に言った。
「ごめん、今日のお昼のお弁当、これとこれタッパーに詰めといて!」
夫はスマホを置いて、妙に頼もしい顔でうなずいた。
「OK。任せて」
その言葉に、私は完全に油断した。タッパーには昨夜の残りのおかずを入れて、保冷バッグに入れるだけ。最後に冷凍餃子を数個、上に置いておけば、昼には自然解凍されてちょうどいいと思っていた。
「あ、あと冷凍餃子、そのまま上に乗せちゃっていいから!」
冷凍庫の前で夫が止まった。
「え、このままでいいん?」
「いいよ!」
「7個くらい固まっちゃってるの、そのまま入れちゃっていいん?」
「上に置ければいいよ!」
私は洗面所で化粧をしながら返事をした。今思えば、この時点で一度見に行くべきだった。けれど私は、夫の“そのまま”の解釈を完全に甘く見ていた。
昼休み。
職場の休憩室で、同僚たちがお弁当を広げ始めた。私も「今日は餃子もあるんだよね」と少し楽しみにしながら保冷バッグを開けた。
次の瞬間、声が出なかった。
タッパーの上に、冷凍餃子が裸のまま乗っていた。
袋にもラップにも包まれず、まさに“そのまま”。
しかもバッグの中で少し溶けて、タッパーのふたにぺたっと張りついている。
「いや、そういう意味じゃないだろ!」
思わずつぶやいた私に、隣の同僚がのぞき込んだ。
「え、なにこれ?」
「夫にお弁当詰めてもらったら、餃子が直置きされてた」
その一言で休憩室がざわついた。笑いをこらえる人、スマホを取り出す人、肩を震わせる人。私は怒るより先に、あまりの真っすぐな失敗に力が抜けてしまった。
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