「そんなに眠いなら、家で寝ればいいのに」
電車に乗った瞬間、思わずそう呟きそうになった。
平日の昼過ぎ。
車内はそこそこ混んでいて、立っている人も何人かいた。
私は吊り革につかまりながら、空いている席を探していた。
すると、目の前の座席に黒い服の男性が横になっていた。
座席をほぼ全部使うように体を伸ばし、靴のまま足を曲げ、頭は窓側にもたれかかっている。
最初は体調が悪いのかと思った。
それなら声をかけた方がいいかもしれない。
でも近くにいた乗客たちは困ったように目を合わせるだけで、誰も何も言えずにいた。
隣の席に座っていた女性は、本を開いたまま少し体を縮めている。
立っている男性はスマホを見ているふりをしながら、明らかにその人を気にしていた。
私も迷った。
寝ているだけなら放っておくべきか。
でもここは自宅のソファではない。
公共の電車だ。
1人分の席ではなく、何人も座れる場所を使っている。
しかも足元にはスマホらしきものが落ちていた。
私は内心ヒヤッとした。
もし踏まれたらどうするのか。
もし盗まれたらどうするのか。
もし本当に具合が悪いなら、なおさらこのままでは危ない。
次の駅に着いた時、私は近くにいた駅員さんに状況を伝えた。
「車内で横になっている方がいます。体調不良かもしれません」
駅員さんはすぐに確認に来てくれた。
「大丈夫ですか?」
最初、男性は反応しなかった。
駅員さんがもう一度声をかけると、ようやく薄く目を開けた。
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